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山口地方裁判所 昭和34年(わ)174号 判決 1959年10月16日

被告人 森下昭朗

昭六・三・一一生 無職

主文

被告人を

判示第一の罪につき懲役六月に

判示第二の罪につき懲役六月に

判示第三の罪につき懲役六月に

各処する。

但し、右各裁判確定の日からそれぞれ三年間右各刑の執行を猶予する。

押収の偽造自動車運転免許証一通(昭和三四年押第七一号の一)はこれを没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和二九年三月広島刑務所を出所後定職がなく困つた為、本当は自動車運転の法定の資格を有しないのに自動車運転免許証を偽造行使して運転手として生計を立てようと企て

第一、昭和三一年九月頃山口県下関市長門町一九番地の自宅で、予ねて平田清から貰つておいた、山口県公安委員会発行にかかる同公安委員会の署名押印ある平田清に対する自動車運転免許証を利用し、前記行使の目的で、勝手に、該免許証写真貼付欄の右平田の写真を剥離して該部に自己の写真を貼付し、本藉、住居、氏名、年令の各欄に記載されていた右平田の本藉「下関市高畑町二〇九」住居「下関市上田中町大正通り」氏名「平田清」年令「昭和九年一一月九日生」の文字をそれぞれインキ消で抹消して、各該当欄に被告人の本藉「下関市長門町一九」住居「下関市長門町一九」氏名「森下昭朗」年令「昭和六年三月一一日生」とそれぞれペンで記入し、免許年月日欄に記載してあつた普通自動車免許日付「昭和三〇年三月七日」自動三輪車免許日付「昭和三〇年四月七日」の各文字を同様にしてそれぞれ「昭和三〇年一一月七日」「同年一二月七日」と書換え、免許証交付年月日欄に記載してあつた「昭和三〇年一一月二八日」の文字を同様「昭和三〇年一二月二八日」と書換え、以て被告人が右の如く書換えた内容の免許をうけたことを証するが如き山口県公安委員会作成名義の自動車運転免許証一通(昭和三四年押第七一号の一)を偽造し、昭和三二年八月二七日小倉市大門町三四番地附近路上において小倉警察署勤務巡査部長安部忠夫より呈示を求められた際同人に対し偽造にかかる右免許証を真正に成立したものの如く装つて呈示行使し

第二、昭和三三年二月一四日宇部市西区鵜の島附近道路上において宇部警察署務巡査谷村繁雄より呈示を求められた際同人に対し前同様右偽造免許証を呈示行使し

第三、昭和三四年四月一四日小倉市大字湯川バス停留所附近道路上において小倉警察署勤務巡査鶴田正より呈示を求められた際同人に対し前同様右偽造免許証を呈示行使し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(前科)

被告人は

(一)  昭和三二年一一月二八日小倉簡易裁判所において道路交通取締法施行令違反罪(駐車禁止違反)により罰金一、〇〇〇円に処せられ、この裁判は昭和三三年一月一一日確定し

(二)  昭和三三年六月一六日下関簡易裁判所において道路交通取締法違反罪(速度違反)により罰金一、五〇〇円に処せられ、この裁判は同年七月四日確定し

たものであつて、この事実は検察事務官作成の前科調書、略式命令謄本、電信回答訳文の各記載により明らかであり、従つて、判示第一の罪と第二の罪との間、及び第二の罪と第三の罪との間、には夫々確定裁判が介在して居る訳である。

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人の判示第一の所為中の有印公文書偽造の点は刑法第一五五条第一項に、同偽造公文書行使の点、及判示第二、第三、の各偽造公文書行使の所為は夫々同法第一五八条第一項第一五五条第一項に該当するところ、第一の所為と第二の所為との間、及第二の所為と第三の所為との間、には夫々確定裁判が介在すること前示の通りであるから、第一の各罪と、前示(一)の前科に係る罪との関係、及第二の罪と前示(二)の前科に係る罪との関係は夫々同法第四五条後段の併合罪であるから、同法第五〇条に従つて未だ裁判を経ない右第一、第二、の罪についても処断することとなるのであるが、右第一の所為中の公文書偽造の罪と、同偽造公文書行使の罪とは手段結果の関係にある(右偽造罪と第二、第三、の各行使罪との間には前示各確定裁判があるので牽連関係はない)ので同法第五四条第一項後段第一〇条により犯情の重いと認める右偽造罪の刑に従い、尚情状により同法第七一条第六八条第三号を適用して酌量減軽をした刑期範囲内で被告人を判示第一の所為につき懲役六月に処し、判示第二第三、の各行使罪についても情状により、右と同法条を適用して夫々酌量減軽をなし、その各刑期範囲内で被告人を判示第二、第三、の各所為につき夫々懲役六月に処し、但し情状により同法第二五条第一項に則り、右第一、第二、第三、の各罪について各懲役六月の刑につき本裁判確定の日から三年間夫々その執行を猶予することとし、押収の偽造免許証は判示第一の行使罪の用に供したもので何人の所有をも許さないものであるから同法第一九条第一項第二号第二項本文により之を没収し、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用して被告人に負担させないこととした次第である。

(裁判官 永見真人 竹村寿 丸尾武良)

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